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 バイオでエコを創造-微生物の機能を利用して地球温暖化問題や食糧・資源問題など私たちの暮らしを取り巻く環境問題を解決するための研究に取り組んでいます。
 行っている研究は大きく次の二つです。
①バイオビニルモノマー生産微生物の探索と新規メディカルポリマーへの展開
②微生物電気培養による二酸化炭素からの糖生産システムの開発
 環境調和型で健康長寿社会の構築に向けたバイオプラスチックの開発や、価値のない二酸化炭素から高付加価値の糖を高生産するシステムの開発を通して、環境問題の解決を図るとともに持続可能な社会の構築を進めていきます。
 興味はあるがバイオの知識がない方、微生物を取り扱ったことのない方、機械工学・電気化学・システム開発に興味のある方など研究に参加して頂ける全ての方を歓迎いたします。どうぞお気軽にご連絡ください。
​ また、国内外の他大学および企業との共同研究や上記以外の研究も行っています。その一つとして、平成29年度から始まったJST未来創造事業・地球規模課題である低炭素社会の実現において、東工大、東農大と共同研究を行っています。
 
 プラ原料生産菌分離法「DISCOVER」がScientific Reportsに掲載されました
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①バイオビニルモノマー生産微生物の探索と新規メディカルポリマーへの展開
​1. 背景と目的
 ある種の微生物はバイオビニルモノマーを生産します(図1)。それらは複雑な構造と高い重合反応性を併せ持つため、新規ポリマー原料としての利用が期待されますが、その種類は少なく生産技術もありません。また、どのように生合成されるのかについても不明な部分が多くあります。一方、バイオビニルモノマーの一つであるイタコン酸とそのポリマーは、それぞれ抗炎症活性と抗ガン活性を示すため、新しい抗炎症剤やメディカルポリマーとしての利用が期待されています。本研究では、バイオビニルモノマー生産微生物を土壌から選択的に分離する技術の開発およびモノマーの体系化および生産技術を開発するとともに、バイオビニルモノマーの生理活性(抗菌性、抗炎症性、抗ガン活性)を解明し新規メディカルポリマーを開発へと繋げることを目的としています。
図1. 生物が生産するビニル系化合物の例. 微生物が生産するもの(バイオビニルモノマー)は赤で表記.
2. 概要
 バイオビニルモノマーの末端二重結合に特異的なカップリング反応を応用することでバイオビニルモノマー生産微生物を土壌から迅速かつ高効率に分離する技術を世界で初めて開発しました(図2)。我々は本技術を、DISCOVER(Direct  Screening Based on Coupling Reactions for Vinyl Compounds Producers)と名付けました。【発表論文】 Sci. Rep., 9(1), 16007 (2019)など
図2. バイオビニルモノマー生産微生物の探索. 分離プロセスには微生物が生産するバイオビニルモノマーの末端二重結合に
特異的なカップリング反応を利用(特願2015-146526、2015-165904、2015-165905).
 DISCOVERを用いて土壌から新規なバイオビニルモノマー生産菌であるAspergillus niger S17-5を分離し、その構造をMSやNMRなどを用いて明らかにしました。その結果、得られたバイオビニルモノマーは9-ヒドロキシヘキシルイタコン酸および10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸の2種類であることがわかりました(図3)。培養細胞を用いた生理機能評価の結果、取得したバイオビニルモノマーには細胞毒性があることがわかりました(図4)。現在、この技術を用いてモノマーの体系化を進めるとともに微生物生産技術の開発を行っています。
図3. A. niger S17-5が生産する2種類のバイオビニルモノマーの1H NMRによる構造解析.
図4. 動物培養細胞を用いた生理機能評価実験の様子と細胞毒性評価.
 また、得られた10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸とイタコン酸をフリーラジカル重合し、ポリ(イタコン酸-co-10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸)を合成しました(図5)。これは、微生物が産生するバイオビニルモノマー(イタコン酸を除く)を用いてポリマー合成を行った最初の例です。現在、合成したポリマーの特性を解析するとともに、メディカルポリマーとしての利用展開を目指しています。
 
 
 
図5. ポリ(イタコン酸-co-10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸)の合成.
 さらに、バイオビニルモノマーの一つであるイタコン酸に注目し、これを生産する大腸菌の開発に取り組みました。代謝工学に基づき遺伝子組換え技術を用いて、cis-アコニット酸脱炭酸酵素遺伝子cadおよびアコニターゼ遺伝子acnBの発現とイソクエン酸脱水素酵素遺伝子icdの破壊を行うことで、大腸菌にイタコン酸生産のための代謝経路を導入しました(図6)。バイオビニルモノマーの新たな微生物生産技術として注目されます。【発表論文】 J. Biosci. Bioeng., 119(5) 548 (2015)など
図6. 代謝工学に基づく大腸菌によるイタコン酸生産. 代謝改変することで生産性を飛躍的に高めることができる.
 
3. 応用と将来展望​
 バイオビニルモノマーは石油由来ビニルモノマーとは異なり、炭素数が多い(C5以上)、窒素などのヘテロ原子を含むなどの特徴があります。よって、これを用いることで、特殊な物性や生理活性を付与したポリマーの創成が実現できます。また、バイオビニルモノマーは高い反応性を示すため生物にとって有毒であると考えられますが、代謝工学により新しい代謝経路を自由にデザインすることで、 種々の微生物でモノマーなどを生産することができます。バイオビニルモノマーはポリマー原料としてだけではなく新規な創薬シード化合物としての可能性も秘めています。
 微生物の持つ潜在能力は無限です。それを最大限引き出す技術を開発することで、バイオビニルモノマーを基盤とした新規ポリマーの創成(バイオビニルイノベーション、図7)を目指していきます。
図7. バイオビニルモノマーにより実現されるバイオビニルイノベーション.
 
微生物電気培養による二酸化炭素からの糖生産システムの開発
​1. 背景と目的
 低炭素社会の構築のためには、排出された二酸化炭素をバイオマスとして固定化し有機資源として利用する炭素サイクルの概念(カーボンニュートラル)の考え方が重要です(図1)。 光合成機能を持つ植物はその主役を担う役目を持っています。もし、植物の代わりにより成長の速い微生物を用いることができればカーボンニュートラルを加速させつつ物質生産も行えることから、地球温暖化・食糧・資源問題を一気に解決できる可能性があります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

図1. バイオプラスチックを例にしたカーボンニュートラルの考え方.

 一方、微生物の中には光合成ではなく化学合成により炭酸固定を行う化学合成独立栄養細菌がいます(図2)。このタイプの細菌を用いれば高効率に二酸化炭素を固定化することが可能になりますが物質生産の研究例は限られています。 ところで、電気を還元力として供給し微生物を培養する電気培養があります(図3) 。太陽光や風力などの再生可能エネルギーから得た電気を用いて化学合成独立栄養細菌を電気培養することで二酸化炭素から物質生産を行うことが可能になります。 本研究では、光合成を行う細菌であるシアノバクテリアを用いて二酸化炭素を原料としたバイオプラスチック生産システムを開発するとともに、光合成を行わない化学合成独立栄養細菌と電気培養を組み合わせて二酸化炭素を原料とした糖生産システムを開発する事を目的としています。

図2. カルビン回路を持つ化学合成独立栄養細菌と光合成独立栄養細菌.

図3. 化学合成独立栄養細菌の電気培養の仕組み
2. 概要
 光合成微生物であるシアノバクテリアを代謝改変し用いて、 二酸化炭素からイタコン酸を直接生産することに成功しました(図4)。バイオプラスチック原料を植物を用いず二酸化炭素から直接生産する技術として注目されます。 【発表論文】 J. Biotechnol., (195) 43 (2015)など
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

図4. シアノバクテリアによる二酸化炭素を原料としたイタコン酸生産.

 化学合成独立栄養細菌のうち、キサントモナス属細菌であるXanthobacter autotrophicusは二酸化炭素やギ酸などのC1 化合物を固定化し糖を生産します。 電気培養では、水の電気分解により生成した水素を還元剤として二酸化炭素を固定化する方法、もしくは、電気で二酸化炭素を還元して生成したギ酸を還元剤および炭素源として利用する方法が考えられます。現在、キサントモナス属細菌を遺伝子的に改変し糖生産能の向上を試みるとともに、電気培養と組み合わせて二酸化炭素からの効率的な糖生産システムの開発を進めています(図5)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図5. 0.2%ギ酸Na(+40 mM MOPS)存在下でのキサントモナス属細菌Xanthobacter autotrophicusの増殖と
電気培養との組み合わせによる糖生産システムの概要
3. 応用と将来展望
 ​シアノバクテリアを用いることで特別な装置を使用せずともマテリアル、燃料、食糧などを永続的に生産できます。 また、高密度培養と電気培養を組み合わせてキサントモナス属細菌を培養することで工業的に電気と二酸化炭素から糖の生産を行えるようになります。すなわち、植物栽培のための耕作地や農作業は不要になります。食糧は植物でなく微生物から得る時代がやってくるかもしれません(図6)。 糖は食糧および工業原料として重要な化合物です。一方、世界的に人口爆発が加速しており2050年頃には100億人を突破するといわれています。これだけの人口を養うための革新的技術(ゲームチェインジングテクノロジー)が必ず必要になります。本研究は地球温暖化・食糧・資源問題を解決し安定した循環型社会を構築するための先駆的技術となります。
図6. 電気培養の創る未来の農業
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​お気軽にどうぞ!

国立大学法人 京都工芸繊維大学

バイオベースマテリアル学専攻

生物資源システム工学研究室

〒606-8585

京都市左京区松ヶ崎橋上町1番地​

14号館S306室

​教授 麻生 祐司(あそう ゆうじ)

Tel/Fax: 075-724-7694​

E-mail: aso@kit.ac.jp

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